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彼と彼女のプライド ~面倒な彼女~


「違う!潜水艦は『沈む』んじゃないの!『潜る』の!」
 
 
 
 

居酒屋で急に聞こえたこの荒げた声に好感を持ったのは、メンバーの全員だった。
おや、と思った冬原は隣をむくと、明らかにぎょっとした夏木と目があった。
  
 
 
 
 
 
 
彼と彼女のプライド

 
 
 
 
 
 
 
  

「え?来週の金曜?ごめーん、ちょっと無理。うん、また誘ってね。皆で楽しんできて!」
 
 

風呂上りの夏木大和は、その砕けた口調とちょっと残念そうな望が少し珍しいな、と思った。
おおかた、仲の良い友達か何かの誘いを断ったのだろう。
 
 

「何?友達?」
「うん。来週プチ同窓会やるんだって」

 
「行ってくれば?」

あ、まずい。思ったときにはもう口に出ていた。

 
 
 
 
 
「・・・何それ、私と一緒にいる時間が少なくなってもいいの!?」
 
 
 
 

ここは「行ってくれば?」じゃなくて、「行かなくていいの?」だ。
この微妙な言葉のニュアンスを望はすごく大事にする。
それがわかっていながら、つい失態を犯すのは何故なんだろう。

 
「違うって!何でそっちもってくかなー。」
  


望がつっかかろうとするのを、ひとさし指を望の唇にあてて少しとどめた。
ここで望ペースに持っていってしまうと喧嘩になる。

 
 
 
夏木は少し迷ったように目線を空中に泳がせ、そして望を見据えた。

「久々の気のしれたメンツなんだろ?会って来いって言ってんの。」




「・・・・だって、夏木さんと離れたくないし。」
恥ずかしそうに望は俯いた。




うわ、やばい、可愛いコイツ。





本当は自分を選んでくれたことは、かなり嬉しかったりするのだが、
夏木が上陸している間、望が夏木に遠慮して、
いつもどおりの生活が出来ないのは本望ではなかったりもする。





「行きたかったんだろ?ちょっとくらい顔出してこいよ。」
と、そう、額にキスしてやると望は「ありがとう」と嬉しそうに笑った。





 
  
今朝のことである。 
 
 

「夏!今晩、飲み会あるんだけどお前来ねぇだろ?」
 
 
声をかけてきたのは冬原だ。
 
一応きいとくけど・・・と付け足したのは明らかに夏木が断るのを前提の質問で、
『その断りの理由にツッコんで夏で遊ぼう♪』というのがみえみえだった。

けれども、未だかつてこの遊びから逃れれたことは数度しかないので、
最近ではあえて反抗せずに上手くかわすことを覚えた。
 

そのために敵は敵とて新たな戦法で牙城を崩そうとするのだが、
今日の回答では牙城に攻め入るのも難しかったらしい。
  




「いや、行く。」 


 
 

呑み会ときいて合コンじゃなかった試しは無い。
いつもなら即答で断るが、今日は帰宅しても望もいないし、一人分の晩飯を作るのも面倒だ。
誰か誘って俺も呑みにでも行こうかな、と思っていたのでタイミング的には丁度よかった。


だいたい冬原が夏木を合コンに誘うのは、
頭数合わせの場合がほとんどだし不思議なことに望もそれをわかっている。
これは随分あとになって知るのだが、冬原夫人から何か言われたらしい。

そんなわけで、特に気兼ねせずに引き立て役になりつつ、
呑み食いに徹せばいいので多少の窮屈はあるものの、合コンは、実はそんなに苦痛な場でもない。


牙城に攻め入れ損ねた冬原は不安そうに夏木を覗き込む。
 
 
「・・・望ちゃんと喧嘩でもした?」


その滅多に見せない顔が面白くて苦笑しながら応えた。

  

「してねえよ。あいつ、今日、同窓会なんだ。

それよか、お前こそ帰らなくていいのか?」

 

この質問に冬原は不本意だというようにムスッとした。
夏木に対してでは無い。その不遇に対してだろう。

 
「昨日から子供達いないんだよ。聡子に用事があって、それで聡子の実家に預けてる。
俺が休みなら見てやれ るんだけどなぁ。」


聡子もいないし・・・・、だいたいさぁ・・・

と惚気かなんだか、ぶつぶつ続けるので適当に相槌をうちながらきいてやる。


多分冬原が此処いるのは、今日の昼にどうしても外せない仕事があるからで、

それがなかったらコイツ有給とってでも休んで子供と遊ぶんだろうなぁ、

と冬原の子煩悩ぶりに夏木は思わず苦笑した。
  
 


「じゃあ、夏は出席な。」
 
 


そういって、他の出席者の確認に冬原は足早にかけていった。
 

結婚して何年経っても、彼の人の世話焼き係は相変わらず引き継いだままらしい。
 
 
  
 
 
 

 
 
次の休みには望連れて、墓参りに行かなくちゃな。
 

彼の人を思って空を仰いだ。

 

彼の死は、しかして夏木と望が出会うことになるきっかけでもあった。 
ゴトリと落ちたあの腕の生々しさは今でも覚えている。
忘れることなど決して無い。
彼1人の犠牲で自分達が生きていることを。

それでも、何の因果だったのだろう。と思わずにはいられなくなる。
  
 
 

  
視界がにじんだ。
 
 
 

感傷に浸ったのではない、空の妙な青さが目に眩しかっただけだ。
 
 


誰にともなく自分に言い訳をして仕事場へ歩いていった。

 

****************
 
 
 
飲み会は横須賀基地から程近い居酒屋で、
その面子は予想外だったが、
夏木としてはありがたい気持ちも半分だった。










「お前にしては珍しいな?」

てっきり合コン(自分は頭数あわせ要員)だと思っていたので、
ヤローばっかの飲み会には意表を突かれた。


「たまには男同志で飲むのも大事でしょー」

「毎日顔つきあわせてんのに?」


でも酒なしでしょ、と苦笑する冬原は種明かしをした。



「っていうのは冗談で、急にこれなくなったみたい。
なんか下り線で事故があったらしくてさ、電車ストップしてるんだって。」


夏木は口下手であるが故に女の子と話すのはそんなに得意ではないので、少しホッとした。
いくら合コンがそんなに苦痛では無いとはいえ、窮屈なものは窮屈ではある。
 
 

ただ、夏木以外のメンバーは一様にがっくりと肩を落とたのは仕方ないかもしれない。

 

 

居酒屋に入ってすぐ望にメールを打った。
  
 
 

『今日は飲んで帰ります。10時までには帰るから、心配するな。』



『飲み過ぎないようにね!私もそれくらいまでには帰るようにします。    望』
 
 

 
毎日一緒にいるようなメンバーでも、酒が入って話だすといつもとは違う内容で、それはそれで面白かった。

過去の失恋話自慢大会では、ほとんど全員が遠距離で失敗してるのは職業柄、流石といえば流石だろう。

それから今までの彼女の話やら、合コンに来たむかつく女の話等、
大抵が女の話になっているのは何の因果か応報か。

みんな、普通の男なんだよなー。

と夏木はちょっと客観的視点で思ったりもする。



それは冬原も一緒だったらしく、夏木の顔をみるなり苦笑してジョッキを軽くあげた。

「次は何たのむ?」という意味らしい。
じゃあ、黒ビールと言いかけたところで聞きなれた荒げた声が店内に響いた。
 
 
 

「違う!潜水艦は『沈む』んじゃないの!『潜る』の!」
 



************************
 

「望!」
 
 
 



存外に大きくなってしまったその声に、
そのテーブルに座っていた全員と、一緒に呑みにきていた海自の面々と、
それから周りにいる客の注目まで浴びてしまうが今更「あとの祭り」である。

 
 
 
 


「・・・夏・・木・さん?」
 
 
 
 
 
 

思考回路がにぶっているのだろう、
また、こんなところにいるわけない、という思いもあるのか、
望は目の前の夏木を少しみつめて呆然としたあと、はたはたと泣き始めた。

 
 
「え、夏木って、あの望の彼氏?海自の??」

自衛隊なんてダサい、と笑っていた人たちがぴたりと固まる。
 
 

「え、ちょっと聞こえてたんじゃない?」

「流石にまずいよ」

そんな外野の声はこの際無視する。
 
 

「どうした。望??」

「だって、小池君が、潜水艦は沈むって言って直さないんだもんー」
 

誰だよ、小池。
と嫉妬ではなく、内心ツッコんでしまう自分に余裕があることに少し安心した。

 
 

「なんでそんなことで泣いてんだよ、お前は。」

「だって、沈むって言ったら撃沈されるみたいで嫌なんだもんー。夏木さんが死んじゃうー」

「勝手に殺すな!」


もはや、半分コントである。

望の友人達は反応についてこれていないせいか、まだぽかんとした様子だ。

決して静かとは言いがたい。
気まずい様子が交錯しているようだった。

逆にこっちは冬原を筆頭に、あとからおいかけてきた海自の仲間達は既に爆笑の渦の中である。
 
 
 
 
「お前、酔ってんだよ、ほら、帰るぞ。」 

ぐい、と望の腕をひっぱるとそれを頑なにこばんだ。 

「やだ。小池君が訂正してくれるまで帰らない!」

「何言ってんだよ。ほら、望が酔ってるから迷惑かけてるだろ?」

仕方なく、思い切り抱き寄せる

「嫌!自衛隊の何が格好悪いのよ!海自の何がダサいのよ!!」

既に夏木の腕の中にいるが、その言葉の矛先は完全に夏木ではない。
 
 

「そんな人たちに守ってもらっといて、暢気なこと言ってんじゃないわよ!!」

そのまま顔を伏せるように夏木にしがみついた。
 

「望?」

「・・・・帰る。夏木さん、帰ろう。」 

あぁ、これは経験からわかる。
泣くのを我慢してる望だ。 
 
 

軽くため息をついて小池とやらに向き直った。

「せっかくの同窓会で悪かったな。ちょっと悪酔いしたみたいだ。」

と、大人の余裕でとりあえず謝っておく。

「望の会費は?」と財布を出そうとしたら
「もう貰ってます」と幹事らしき子が答えたので、そのまま帰ろうと望を抱き上げた。

相変わらず望は首に腕を回してしがみついたままで、
普段の望のキャラからなら、考えられない行動だろうなぁ。
と内心、同窓会のメンバーの心境を考えて苦笑した。


帰ろうと一歩を踏み出したところで、夏木は思い出したように振り向いた。

それに思い切り反応したのが、例の小池である。

どうやら自分の居心地の悪さを思い知ったみたいなので、
海自の悪口の報復はそれでヨシとしてやることにした。
 
 

「俺、普段あんまりコイツかまってやれねぇから、ちょっと気がたってたんだ。
また懲りずに望、誘ってやって。」
 
 

と、誰に話しかけるでもなく意図的に冬原の笑みを真似て言い放つ。
望のプライドとメンツを守るため、そして、余裕のあるフリをして男共を威嚇する意味をこめて。
 
 

効果はそれなりにあったらしい。

その場の全員が今度こそ水を打ったように静まりかえった。
  
 

 
「冬原、たてかえといて。」

と夏木は冬原とすれちがった時に頼むと。

「高いよ?」

と笑い声が返ってきた。
  
 
笑って答えてはいるものの、その振っている腕はさっさと帰れ、の合図だ。

それを確認してその場を後にした。
 

******************


 
実はさっきの救出劇には続きがある。
これは、あとから一緒にいたメンバーが教えてくれた話だ。
 

冬原が『呑みなおそう』と元の席に戻るときに、付け足したのように言い放ったらしい。
 
 
「あ、そうそう。自衛隊がダサいだのなんだのいうのは勝手だけどさ。
こういう基地近くの居酒屋で、そういうの言うのはどうかと思うよ。
ほらさ。そのダサい 俺ら に国防されてるんだし、そういうのは控えた方がいいかもね?」
 
 

本家本元、その綺麗な顔に笑顔で言われると痛恨さも抜群だったことだろう。
 
 
 
その光景が思い浮かんで思わず苦笑してしまった。
ぎくり、と肩をこわばらせた者は決して一人や二人ではなかったはずだ。
 
 
 

また冬原も、随分こっそりとブチ切れたものだ、
と思ったが、それは他のメンバーも一様だったらしい。

確かに、自分の仕事を愚弄されて怒らないほど殊勝にはなれないだろう。
報復としてはアリだ、と、
望の同窓生には気の毒かもしれないが、そこらへんは大目にみておくことにした。
 
 

逆に望の株はさらに上がったらしく、
あぁ、この話はまた当分、色々なところで言われるんだろうなぁ、
と早くも頭を抱えたが、それはまた別の話でもある。 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

さて、その夜、家についてからも、望の悪酔いは治る気配がなかった。


仕方なく服を着せ替えさせてやり、ベッドに運ぶ。

「夏木さん、ごめんなさい」
 
「あぁ?何が?」
 
どれのことだよ、と思わず苦笑する。
 
 
ベッドで横になった望はそのまま顔を伏せた。

「嫌な思いしたでしょう?」

泣き顔を見られまいと声ごと押し殺そうとする。


「全然してないよ。望が俺達の名誉を守ってくれただろう?」


「・・・・・・・・」



「むしろ、嬉しかった。」


夏木はなるべく優しく声をかけて、背中をさすってやる。
それは怒ってないという合図だ。
望がこらえ切れなくなったように夏木に抱きつく。

好き、大好きと泣きながら何度もつぶやく望が何よりも愛おしかった。
 
 
 
 



俺が陸にいない間はこうして一人で戦っているんだ。

俺だったら戦わないで流してしまうようなことまで、すべて戦ってる。

俺のプライドを守るために。

 
 
 
 
 

そんな彼女のプライドが好きだと思った。

そんな彼女が何よりも愛おしく感じるのは欲目なんだろうけど、仕方ない。
苦笑しながら力いっぱいその細い体を抱きしめかえした。
 
 
 
 


 
 
  
 


fin

 
 
 



 



****************


拍手お礼でしたー。
まさかの推敲なしでそのままアップです。


す・・・すみません。
2月には戻ってきます!


 
 
 
 
    
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