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カミツレの咲く庭


夏。
窓をあけていると、妻の好きな花の香りが必ず窓から訪れる。

妻が死んでからも、庭の小さな一角の花壇だけは、手入れを怠ったことはない。

おかげで毎年綺麗な白い花を咲かす。




稲峰はひとつの本を片手に、窓辺でその一角を見つめていた。
妻と過ごした最後の夏のひと時を思い出しながら。

  
 

 


 
カミツレの咲く庭 

 
 
 
 
 



「何を読んでいる?」
 
 
「これ?今度ウチの図書館に入れたらいいんじゃないかしら、と思ってる一番の候補よ。」


と老人の写真が表紙の本を手渡された。
随分と真新しい。
来月の新刊らしく、どうやら出版社に勤めている友人からオススメの本として貰ったらしい。




それはともかく、タイトルが凄い。
 
 
 
 

『今日は死ぬのにもってこいの日』
 

 


検閲ですぐにひっかかりそうなタイトルだ。
よく手にいれたものだ、となかば関心した。


「これがお前の第一候補なのか?」

「えぇ」

まぁ、中を読んでみてよ、と諭されたので開いてみる。



どうやらネイティヴ・アメリカンの哲学の哲学によって描かれた、詩と散文と絵を載せている本らしい。

単純だけれども、意味深い生き方をする彼らのその感性に触れて少し心が温かくなる。
 
ぱらぱらとページをめくっていると妙な違和感を感じた。
新品の本の割には、つっかかるところがある。

どうやら開き癖のついたページがあるらしい。


妻も何度も本をめくる自分の行動に気づいたのか、

その詞が一番すきなのよ、

と凛とした声で笑った。
 





生きているものすべてが わたしと調和している


すべての声が わたしと歌をうたっている
すべての美が わたしの目の中で休もうとして来る
すべての悪い考えは 立ち去っていった


今日は死ぬのにとてもいい日だ
わたしの大地は わたしを穏やかに取り囲んでいる
畑には 最後の鍬を入れてしまった
わたしの家は 笑い声に満ちている
家に子供たちが帰ってきた
 

うん
 

今日は死ぬのにとてもいい日だ

 

 
 
 




「素敵じゃない?
死ぬ時はこういう風に笑って穏やかに、そうして死ねたらいいわね。
こんなくだらない法律でこんな素敵な本を自由に読むことすら規制されて・・・・。
そういった世の中が終わってるともっと素敵よね。
そしたらきっと安心して死ねるわ。」
  
 

大台を過ぎてもまだ彼女の好きな花のように、慎ましやかな笑顔を見せる彼女に、苦笑しながら本を返した。 
 
 
 

「そのためには生きて、本の行方を見届ける必要がありそうだな。図書館員として。検閲にかかる前に抑えろよ?」  
 

と、この本の入荷を促した。
  





 
 
 
 
 







しかし、結果としてこの本を守ることが出来なかった。
彼女の命すら、守れなかった。 
 
 
 
まさか、この半年後に彼女が図書館を守るために戦って、そして亡くなるなんて想像もつかなかった。
来年も一緒にこの花壇をみながら談笑をしているものだ、なんて、考えもつかないほどの当たり前の行為だったはずなのに。 
 
 
  
 

「君たちは――公序良俗を謳って人を殺すのか!」
  
 
 
 
 

彼女が望んだ最期は決してあんな銃弾の悲劇ではなく、まったく正反対のものだったのに。
  
 


 
 
 


 


カミツレの香りを嗅ぐ度に彼女のことを思い出す。
 
 
 

彼女が気に入っていたこの本を久しぶりに開いたら、ネイティブアメリカンの言葉が目に入った。
 


宇宙の流れの中で
自分の位置を知っている者は 死を恐れない

堂々とした人生

そして祝祭のような死

「いつかどこかでまた会おう」
 




 
 
そのまま窓辺においておくとパラパラと風でめくられ、開き癖のあるページで止まった。
 


生きているものすべてが わたしと調和している


すべての声が わたしと歌をうたっている
すべての美が わたしの目の中で休もうとして来る
すべての悪い考えは 立ち去っていった


今日は死ぬのにとてもいい日だ
わたしの大地は わたしを穏やかに取り囲んでいる
畑には 最後の鍬を入れてしまった
わたしの家は 笑い声に満ちている
家に子供たちが帰ってきた

うん

今日は死ぬのにとてもいい日だ

 





「次に会うときは、こういう最期をおくるのもいいかもしれませんね。」






誰にともなくそよぐ花に声かけ、そして稲峰は窓を閉めた。
 






***************
出典:Nancy Wood『Today is a very good day to die.』

「苦難の中の力」に秘めた思い。
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  •  #
  • 2007-09-23(Sun) 16:56:10
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  •  #
  • 2007-11-19(Mon) 20:10:17
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